失敗しないCMS導入の勘所:上流工程は神様
トヨタ生産方式に有名な言葉で「前工程は神様、後工程はお客様」があります。前工程の成果物は、後工程にとっては自分ではコントロールできない神の領域。前工程では、後工程をお客様とみなして、不良品を流さない工夫が求められます。
Webサイト構築プロジェクトでも、同様のことが言えます。システム開発の分野では、開発工程を河の流れに例えて、上流、下流などと呼びます。一般的に、上流工程とは、実現すべき要求・要件は何かを定義する「要件定義」工程を指します。
CMSを利用したサイト構築においては、何を実現するかを定義する「要件定義」の工程が、プロジェクトの成否を左右します。今回は、この上流工程のポイントをまとめてみます。
Webサイトを定義する要素
そもそも、Webサイトを作るにあたって明らかにすべき事は何でしょうか。 ダン・ローム『描いて売り込め! 超ビジュアルシンキング』に、どんなWebサイトを構築すれば良いかをビジュアルシンキングした事例では、次の3つの要素が挙げられています。
- ブランド
人々(サイト訪問者)に何を記憶してほしいのか、どのように記憶されたいのか- 内容
サイト訪問者に配信したい情報は何か、ビジターが配信して欲しい情報は何か- 機能
サイト訪問者に何をさせたいのか
CMSを利用したサイト構築でも、これらの3つの要素を明らかにすることが大切です。特にCMSを利用したサイト構築では「内容(コンテンツ)」と「機能」を意識する必要があります。
ブランド
- コンテンツを、どの画面に、どのように表示させるのか?
CMSを用いたサイトの要件定義という文脈からいうブランドとは、主にデザインテンプレート(=画面設計)に関わる事柄です。企業サイトについて言えば、Webサイト単体でブランディング施策を講じるということは少ないと思います。あらかじめ定められたコーポレート・アイデンティティなり、ブランド別の施策に沿ってWebサイトも構想されるはずです。
内容
- CMSで管理・配信する「情報(=コンテンツ)」は何か?
配信するコンテンツの属性も含めて定義していきます。 - CMSで実現する「サイト構造(=サイトマップ)」はどのようなものか?
どのようなカテゴリ構造をもつのかなども定義します。
機能
- CMSで実現する、あるいは実現しない機能は何か?
すべての機能要求を、CMSでするのは現実的ではありません。アクセス解析なら、アクセス解析ツールの利用が適切でしょうし、メルマガ配信なら、メルマガ配信サービスの利用が適当です。そのようなCMSで実現する範囲を特定することが大切です。 - CMSを利用するのは誰か?また、どんな場面で利用するのか?
サイト訪問者だけでなく、内部の利用者も含めて明らかにします。
システムを定義する要素
CMSはWebシステムの一種ですが、一般的にシステムを定義する際に考慮すべき事は何でしょうか。 一般にシステム要求の分類に用いられるフレームワークに「FURPS+」があります。FURPS+とは、要求を「機能(Functionality)」、「使用性(Usability)」、「(信頼性)Reliability」、「(性能)Performance」、「(サポートのしやすさ)Supportability」、「その他(+)」に分類したものです。
CMSを利用したサイト構築で特に注意を払いたいのは、機能以外の「非機能要求」に関する項目です。とかくCMSパッケージが有する機能性に意識が行きがちですが、信頼性や性能など、非機能要求に関する事柄が、最終的な導入コストや導入後の保守・運用コストを制約します。要件定義の段階で、一つずつ漏れなく明らかにしておくことが肝要です。
また「その他(+)」に分類されるものとして、次の点にも注意が必要です。
相互運用性
大規模なサイトになると、CMS外部のシステムやサービスとの連携も必要になってきます。そのような場合は、データ形式など、連携方法についても、要件定義の段階で明らかにしておきましょう。
運用系の機能要求
利用者視点の機能要求だけでなく、運用管理者の視点からも機能要求を明らかにしておくことが大切です。例えば、信頼性を高める機能(データベースの多重化など)や、保守性を高める機能(遠隔監視や自動バックアップなど)についても、通常の機能要求と同等に見積・定義する必要があるでしょう。
RFP作成のすすめ
「前工程は神様、後工程はお客様」。では「要件定義」の前工程はというと、それは発注者側の要求・要件です。ご発注者のニーズなしにプロジェクトは始りません。しかし、たいていのご要件は、曖昧で漠然としているのが現実です。このモヤモヤした要件を固めるのが要件定義ではありますが、あまりにも漠然としていると、その分要件定義に時間と労力がかかり、コストも割高になってきます。さらに、決められた予算や期間内でプロジェクトが終わらない、出来上がったものがニーズを満たしていない、などの結果をもたらす原因ともなります。
このような問題を未然に防ぐためにも、ご発注者の皆様には、一般のシステム開発と同様に、Webサイト構築においても「RFP(提案依頼書)」を作成されることをおすすめします。自社の要件・要求事項を「RFP」の形で文書に落としこむことで、自社の真のニーズが明らかになり、社内の合意形成も促進されます。RFPを作成することは面倒で迂回なことに思われるかもしれませんが、結果として短納期・低コスト・高品質なサイト構築の実現につながるはずですので、ぜひお試しください。
参考サイト
RFP完全マニュアル 実践編(ITpro)