失敗しないCMS導入の勘所:CMS導入の評価軸を持つ
「火事、喧嘩、伊勢屋、稲荷に犬の糞」とは江戸の名物ですが、ITプロジェクトの名物といえば「火事」でしょうか。プロジェクト管理手法である「バーンダウンチャート」の名が示唆するように、すべてのプロジェクトは"burn down(全焼する;鎮火する)"すべき火事だったりします。今回は、CMS導入プロジェクトを大火としないための「リスクアセスメント」についてご紹介します。
予防に勝る治療なし
CMS導入プロジェクトを大火としないためには、事前の評価検討(予防)が大切です。導入前評価のポイントは『ソフトウェアパッケージ採用プロジェクトのリスクアセスメント(佐藤秀明、PROVISION Winter 2005 No.44)』が参考になります。こちらの論文では、ERPパッケージなど業務系システムを念頭に、パッケージソフトウェア利用のリスクアセスメント手法が体系化されています。エンタープライズ利用でCMSを導入するようなケースでは、フレームワークとして利用されると良いでしょう。
以下では、CMS導入プロジェクトに引き寄せて、フレームワークのポイントをご紹介します。
3つの評価対象と評価の順番
- パッケージ(CMS製品自体についての評価)
- ソリューション(CMS製品を組み込んだソリューション全体の評価)
- プロジェクト体制(プロジェクトに係る当事者と当事者間の関係性についての評価)
1.パッケージ
第一は、CMS製品そのもの評価です。
- 製品の利用数(ダウンロード数、インストール数)
- バージョン履歴
- バグ情報(パッケージベンダーからバグ情報などが公開されトレースできるか)
- 導入事例(利用企業のプロフィール・適用サイトの規模感)
- ローカライゼーションの可否etc.
2.ソリューション
第二に、CMSを組み込んだソリューション全体の評価です。ソリューションとしての評価は、次の3つの視点から行います。
2.1.業務適合性(フィット&ギャップ分析)
CMS製品の機能が、実際のWebサイト運営業務とどの程度フィットしているかを評価・検証する「フィット&ギャップ分析」。
2.2.規模適合性
CMS製品を適用しようとしているサイトの規模感が、CMS製品が備える性能とフィットしているかの評価・検証。
- CMSで管理しようとしているコンテンツのサイズ(容量)
- CMSで管理しようとしているコンテンツのデータフォーマット
- CMSを利用するユーザ数
- CMSから生成されるサイトへのアクセス数
- 利用ユーザ数などによりライセンス料などコストは変動するかetc.
2.3.機器適合性
CMS製品を稼働させる動作環境(ハードウェア)の評価。
- 所定のパフォーマンスを発揮するためのハードウェア構成
- パフォーマンスを発揮するハードウェア構成を調達するためのコスト
- スケーラビリティへの対応力etc.
3.プロジェクト体制
第三に、プロジェクトにかかわる当事者と当事者間の関係性についての評価です。プロジェクトは、ヒトが進めていくものです。プロジェクトの成否は、それにかかわる当事者の能力や性質に依存します。
CMS製品を利用してサイトを構築する場合は、CMSを実際に使う「エンドユーザ」、CMSを利用してサイトを構築する「インテグレーター」、CMS製品を開発・製造する「パッケージベンダー」の3当事者がいます。各当事者ごとに、リスク要因を洗い出し、事前に検討しておくとよいでしょう。論文中には、当事者ごとに評価指標が挙げられています。
また、当事者間の関係性(契約)についても、責任や保証の範囲について確認・検討が必要です。特に、エンタープライズ利用では、導入・構築後のサポート体制やサポートの範囲について、事前の確認が重要です。
「機能やフィーチャーが不明瞭でその時点で明確にできなければ次へ進む」
事前の評価・検証はとても大切なことですが、評価のための時間やリソースに限りがあることも事実です。最後に、リスクアセスメント全般に対する心構えとして、次の言葉を引用します。
「あいまいだからといって、直ちにそのプロジェクト計画が不適格だというわけではない。プロジェクトにあいまいさは付き物である。あいまいさを把握し、コントロールできるかどうかを見極めることが大切である」
次回の予告
次回は、「上流工程は神様」と題して、要件定義フェーズについて考えてみたいと思います。